物
語文教材分析法
イメージ化のための教材分析
西郷竹彦氏の著作によるところが多い。
<物語文を読むことの意味>
1 作品に描かれている世界を追体験することによって、感動を味わい、ものの見方、考え方を
学ぶ。
2 人物や出来事を描写している言葉や表現方法を
学び、自分の思いを表現する力を養う。
<物語文教材で何を教えるか>
1 子どもたちがより人間らしい人間になるために、描かれている人間の生き方。
2 描かれている内容を子どもたちに捉えさせるための効果的表現方法。
<イメージ化のための教材分析の基本>
1 子どもたちに何を気づかせ、どう思考させるかを考える。
2 子どものどんな力を引き出し、どんな力を育てることが出来るかを考える。
3 作者が子どもたちを文章内容に引き込むためにどのような工夫をしているか考える。
<教材分析の基本的構え>
1 物語の展開を分析する。
冒頭での提示が、どのように展開し、クライマックスに導かれているか。
その過程で子供達はどのような思考力と表現力を
身につけるのか。
2 内容価値を分析する。
改めて題名にもどり文章全体を読み直し、どんな新しいもの
の見方、考え方(人
間の生き方)を学ばせることができるのか。
3 表現方法や表現技法を分析する。
<教材分析の観点>
1 視点をおさえる。
(1) 語り手の存在
作品は、作者が描いている虚構の世界である。この虚構の世界を語っているのは作者ではない。作者が創り上げた語り手
である。
この語り手が、ある時は自分で、ある時は登場人物の目(カメラと考えるとよい)を通して作品の世界を話しているのである。
したがって、この視点人物を見極めて作品の世界をイメージ化しなければならない。
(2) 視点人物と対象人物
ア 視点人物(見る側の人物……カ
メラはその人物の側にある)
その人物の内面(心)はよく描かれているが、外面(姿)はとらえにくい。
イ 対象人物(見られる側の人物……カメラはその人物から見える)
その人物の内面(心)はとらえにくいが、外面(姿)は
よく描かれている。
(3) 視点の転換
物語が展開していくとき、語り手または、視点人物の眼から描か
れていた世界が、ある時点で他の人物や語り手の視点に
切り替わったり、元の視点に戻ったりする。カメラ(画面)が切り替わる。
(4) 視点の移動
カメラの位置が移動するにつれて対象物の描かれかたが変化す
る。正面から描かれたり、背面から、下から、上から、
斜めから描かれたりする。
2 題名を吟味する。
(1) 内容や主題を示している。
(2) 読むための一つの方向性を暗示していることがある。
(3) 作品世界に対する作者の意見、感情、態
度を予測させる。
(4) 読者に知的好奇心(興味、疑問、驚き、意欲)を引き起こさせる。
3 冒頭部分(書き
出し)を吟味する。
(1) 役 割
作品世界を展開するための起点であり、読者に知的好奇心をいだかせる。
(2) 類 型
ア 時刻、月日、季
節、時代など、「時」のみを設定する。
はないっぱいになあれ
イ 特定の場所、村、町、山、
海、国など、「所」のみを提示する。
三年とうげ、やまなし
ウ 登場人物の氏名、性格、生活の
様子などを紹介する。
力太郎、モチモチの木、どろんこ祭り
エ 時と登場人物を紹介する。
くじらぐも
オ 所と登場人物を紹介する。
注文の多い料理店
カ 時、所、登場人物を紹介し、物語全体の輪郭、枠を設定する。
一つの花、大造じいさんとガン
キ 語り手の口上の後、時、所、登場人物などを紹介する。
スーホの白い馬、ごんぎつね、大造じいさんとガン
ク 書き出しから直ぐに物語が展開される。
つり橋わたれ、白いぼうし
4 構成を吟味する。
時の流れにしたがって物語が展開していくのが一般的である。
しかし、「わらぐつ
の中の神様」のように、現在…過去…現在という構成になっているものや、「大造じいさんとガン」のように
語り手が聞いた過去の話
を述べているものがある。「大造じいさん」は決しておじいさんではない。壮年であったはずである。
5
比較の思考で考える。
人物や、人物と人物との関係、情景描写などを「比較しながら考える」ことである。
人物の
特徴や本質を明らかにしていくには、「どこが同じで、どこが異なるのか」、「変わったのはだれ(何)で、変わらないの
は誰(何)であるか」という観点で読んでいくことが大切である。
(1) 比較の対象
・書かれてある内容
・文章の構成(文、段落、文章)
・ものの見方、考え方
・同一場面の中での二つのもの、三つのもの(人物、呼称、出来事)
・同じもの(人物、呼称、出来事)の前と後
・表現されているものとされていないもの
・作者、語り手、人物と読者の考え
・プラスイ
メージとマイナスイメージ
・出来事と出来事
・人物と人物
・人物と
人物の関係
・文末表現
・言葉(和語、漢語、外来語、複合語など)
・
事物の呼称
・ 会話(同じ人物の前と後、同じ時の他の人物)
(2) 比較の観点
ア
類比
似たようなところに目をつけてものごとをずうっと見ていくことにより、その類似性や
共通性が明らかになり、物事の本質や
人物像が浮かび上がってくる。
イ 反復
基本的には類比
と同じであるが、類比的なものが時間的に次々と展開していったり、人物が変化していったり、主題が明
らかになったりする。
イメージや意味を強調する。内容の深まりを示す。構成上の反復と内容上の反復がある。
ウ 対比
対比して出来事や人物を見ることによって、出来事や人物がより
明らかになり物事の本質や人物像が浮かび上がってくる。
対比の観点を見つけることが鍵で
ある。
6 人物や事物の呼称に注目する。
同じ人物や事物をどう表現しているかによって、作者・語り手・人物の人物
や事物に対する感情やその変化を読み取ることが
できる。とくに、会話文では、人物と人物の関係やそ
の変化が明らかにされている。
7 人物像を明らかにする。
(1) 人物像
読者は作品を読みなが
ら、作中人物の人物像をつくりあげていくわけである。その人物の外面と内面を読者がどうイメ
ジ化していくかということであ
る。
(2) 人物像をつくりあげていく手がかり
ア 人物の姓名
イ 人物の呼称
ウ 人物の出身、生い立ち、経歴、職業
エ 人物のとしごろ、容貌、体型、服装(経済状態、社会的地位、趣味などを示してい
る)
オ 人物の言動(もののいいよう、ことばづかい、他者に対する態度、ものや出来事に対する態
度、くせ、口ぐせなど)
カ その人物に対する他者の評価、態度、あるいは、語り手の説明、紹介
(3) 人
物像のタイプ
ア 主人公、主要人物、中心人物とそれを支える人物
イ 肯定的人物と否定的人物(プラ
スイメージとマイナスイメージ)
ウ 対になった人物
(4) 人物像を明らかにしていく。
作者は、中心人物や人物、人物と人物との関係などについて、読者が読みすすめながらプラスイメージかマイナスイメー
ジのいずれかのイメージをもつように描き分けている。
一読して、どちらのイメージをもつかを予想する。そして、読み深め
ていくにつれて、そのイメージがどのように強化されて
いくのか、あるいは、変化、逆転していくのかを意識させながら読んでいく。また、ある人物(視点人物)の眼を通して描か
れている情景は、その人物の心情を
反映している。
ア 中心人物やそれを支えている人物がどのように変容していくのか。
イ 中心人物と他の人物との関係。
ウ 人物の心情
エ 人物と情景との関係
オ 人物と事物との関係
(5) 心情や情景のイメージ化
ア 直接表現されていることから
①語句
②心情、会話
③行動、様子、表情
イ 間接表現さ
れていることから
①行動、様子、表情
②心情、会話から、行動、様子を
③自然・情景描写
8 表現方法の特徴をおさえる。
(1) 描 写
描写から読者が受け取らなければならないのは、その描写をしている「人物」の心情で
ある。描写には、人物描写(外形、言
動、性格、心理)、自然描写、情景描写があるが、自然描写も作者、語り手、視点人物の「主観(個性的な物の見方)」を反映
している。
(2) 説 明
語り手あるいは視点人物が、出来事の起こる場所や起こった時、ま
たそこに登場する人物などについて読者にかいつまんで
教えている部分。
(3) 叙 事
出来事や人物の行動が、「こうして、ああして、こうなった」というぐあいに進んでいく、事件の運びを追いかけて語り進め
ている
部分。
主として「叙事」という方法で、事件を語り勧めている作品を『物語』という。
『民話』は、ほとんど「描写」がなく、「叙事」と「会話」が主体である。近代の『小説』は、「描写」と「会話」が主体となっている。
(4) 会 話
会話というのは、人物たちがお互いに語り合っている「台詞」の部分。ひとりごとも会話
の中に含める。
「会話」は、その内容を伝える役目とともに、その会話を通して話し手の思想や立場、 話している時の状況やその会話に含ま
れている感情までも、聞き手(読者)に伝えている。
9 表現技法を吟味する。
(1) 比 喩
叙述や説明に非常に使われ、その物でははっきりとしないことを明瞭にする効果がある。
比喩には、直喩、隠喩、活喩…擬人法、声喩…擬声語・擬態語、倒置法、対句、反復、文語的表現、漢語的表現などがある。
ア 伝達のための比喩
自分が伝えようとするものまたは事柄を、読者がまったく知らないためにそのまま言ったのでは、まるっきり分かってもらえ
ない場合に使う。抽象的なものを具体的なもので表す。読者は類推する。
イ 強調的な比喩
自分が伝えようとするものまたは事柄を、読者がよく知っているのでそのまま言ってもいいのだが、自分としては他のもので
たとえそのイメージを借りて、より豊かに伝えたい(強くいいたい)時に使う。
ウ 比喩と視点
誰の眼から見て、そう感じたのかが大事である。比喩は、視点人物(語り手、人物)の眼と心を表現しているのであるから、
読者は、比喩のおくにある人物の眼と心を読み取ることが必要である。
9 言語事項を吟味する。
(1) 複合動詞……状況と関わった行動をぴたりと表す。人物の心情が反映されている。
(2) 慣
用句……語り手の心情を表す。
(3) 重ね言葉……強調を表す。
(4) ダッシュ、ナカセン、ナカボウ
最初の語勢を強調する。
突然の中止を示す。
熟考や疑惑を示す。
省略、余韻や間を示す。
(5) テンテン
熟考、とぎれとぎれの思考、沈黙や時間の経過、余情・余
韻、省略を示す。
(6) 感嘆符 !
(7) 疑問符 ?
(8) 句読点……詩の場
合、句読点の有無、打ち方に意味がある。
(9) 言葉のきまり(文法)
10 文末表現を吟味する。
(1)
日本語の特性(文末決定性)から、文末表現を吟味するだけで次のようなことが明らかになってくる。
・語り手や人物の事件や、人物に対する感情・態度。
・人物と人物の関係。
・語り手の対象に
対する姿勢・態度。
・語り手の読者に対する姿勢・態度。
(2) 吟味の視点
ア 文体
敬体……文学的文章に多い。
柔らかい感じ、素直な感じ、優しい感じ、
女性的
常体……説明的文章に多い
かたい感じ、厳めしい感じ、歯切れがよい感
じ、男性的
イ 時制
現在形……説明的文章に多い。物語文における現在形は、読者に臨場感を与
える。
過去形……文学的文章に多い。
歴史的現在形……普遍的な事実を述べている。
ウ 文末の役割
説明、可能、推量、推測、伝聞、問い掛け、呼び掛け、否定、断定、強調、事実の説明、結果の説明など。
イメージ化のための指導方法
1 テレビの
設置
子どもたちの頭にテレビを設置させる。このことによって、子どもたちはイメージ化を具体的に行うこと
が出来るようになる。
文章を読み進めながら、随時スイッチを入れさせる。映像が出、それが動く、音が聞こえ、
色かつく。人物の表情をアップにした
り、場面の情景をロングで全体的にとらえたりすることが出来る。さらに、カメラ(視点)の移動によって人物の見たものが次々
と映し出される。
カメラの切り換えによって、違った視角から映し出すことが出
来 、時間的・空間的移動もたやすくイメージ化することが出来る。
また、映像の連続性ということから、文章には表
現されていないことまでも映し出すことが可能になってくる。
2 よい映像を映し出すために(イメージ化のために)
よい映像を映し出すためには、表現に即して正確に読み取り、表現の細部にまで気を配って読んでいかなければならない。
この正確な読
みを基盤にして、豊かな読みが成り立つのである。そのためには、子どもたちは、想像力や思考力を働かせな
ければならない。
この想像力や思考力をどういう場で、どのように働かせるのかを理解させることが文学的文章における学び方であると考える。
3
豊かな想像力が養われる
自分が映像を創り出すことによって、作品の世界をより切実に共体験することが出来る。ま
た、そのテレビを見ている者
立場に立つことにより、批判的な第三者の目で見ることも出来る。さらに、友達のテレビの映り方を聞くこ
とにより、自分
のテレビの映し方も多様になり、より正確な、より豊かな映像を映し出すことが出来るようになって来る。
4
画面の構成
どのような映像を映し出すかは、画面をどのように構成するかにかかっている。
(1)
カメラの位置(視点)の確認
(2)人物や事物の配置
・遠近法
(3)人物の行動
・視点人物
・対象人物
5 情景や心情のイメージ化
(1)直接表現されていること
から
①語句から、情景や心情をイメージ化する。
②心情、会話から、情景や心情をイメージ化する。
③行動、様子から、情景や心情をイメージ化する。
(2)間接表現されていることから
①行動、様子から、情
景や心情をイメージ化する。
②心情表現から、行動、様子をイメージ化する。
③描写の部分から、心情をイメージ化する。
(3)会話、心情、行動、様子を関連づけては面や情景をイメージ化する。